「まぁ、冗談はさておき。キミの彼氏の観たものは、”大空への畏怖”ぢゃあないのかな?」
「おおぞらへのいふ?」と、Sさんが発した言葉を漢字変換できないわたしは、かろうじてひらがなで発音する。
「青く晴れ上がった空、それを駆け抜ける白い雲。季節は、そうだな、春の終わりから初夏にかけて。それは、誰だって好きだろう?」Sさんの腕が言葉以上に雄弁に語り出す。ノッて来た証拠だ。
わたしは、その問いかけの内容以上に、Sさんがこの話に興味を持ってくれたのが嬉しい。おおきな声で肯定する。
「だが、その青空は微妙な均衡で保たれていて、いつなんどき大きな黒雲が沸き起こり、白い稲妻が大地を引き裂いたり、紅い雨が私達の身体に打ち突けるかもしれない。そんな恐怖が常にあの青空にはあるんだ」
「わたし、そんなややこしい感情で、青空なんか観た事ないよ」っと酷くマトモな正論をわたしが吐くと、
「まぁ、もうすこし、わたしの話を聴きなさい」
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