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初めてこの映画を観た時も思ったのだけれども、1975年 アカデミー賞 脚本賞を受賞したこの映画『狼たちの午後』、主演のアル・パチーノの映画でも、シドニー・ルメット監督の映画でも、だからと言って、オスカーを受賞した脚本家フランク・ピアソンの映画でもない様な気がする。ぢゃあ、誰の映画かと言うと、ジョン・カザールの映画ぢゃあないのかしらって気がしてならない。
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銀行強盗を目論んだ3人組がほんのちょっとした躓きの連続で、警官隊とマスコミと野次馬に包囲された結果、人質立てこもり事件に発展した、1972年 8月22日にN.Y.で実際に起きた事件を、この映画は描く。
警備の手薄なちっぽけな銀行の、土曜日の閉行間際を狙ったのはいいものの、直前になってビビったメンバー1名は犯行現場から逃走、しかも金庫内にはほんの僅かな金額しかなく、ちょっとした不注意で、忽ちの内に、周囲を完全に包囲されてしまう。それから、残された2人組と人質、そして人質解放の任に当たる警部との、「茹だる様な暑さの永い午後」(原題:dog day afternoonはこの意)が始まる。
物語を終始引っ張るのは主犯格のソニーを演じるアル・パチーノ。彼と人質達との滑稽感すら感じるやりとり、警部(=チャールズ・ダーニング)との漢同士のぶつかりあい、そして、その警部が交渉手段のツールとして現場に呼び出す、法律上の妻(♀)や事実上の恋人(♂)や実母とのやりとり。
緊張感と焦りが犯行初動の躓きを呼んで、そこから上滑りしていく心の動きが、コミカルにすら感じる立てこもり直後から、警部との激しい衝突が当時の警察権力への不信感を抱く野次馬達の注目を浴びて心ならずもヒーローに祭上げられて行く中盤まで、「茹だる様な暑さの永い午後」とは裏腹にテンポよく物語は進んで行く。
しかし、ソニー(=アル・パチーノ)が「妻」との面会を警部に要求したところから、物語は主人公のこころの闇、否応もない孤独に踏み込む事になる...。真の意味での「茹だる様な暑さの永い午後」の物語はここから始まる様だ。
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