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征くまへの ひと夜の契りを 夢とせむ しやぶるが如く ひとりのをと女と
<読み>
いくまへの ひとよのちぎりを ゆめとせむ しゃぶるがごとく ひとりのおとめと
<意味>
出征する直前の一夜の交合を夢としよう、しゃぶる様に一人の処女と。
<解説>
なんの小説だろう、と詞書を読んで思うが、それが解ったとしてもあまり意味はない。「征くまへの ひと夜の契りを」想起させる描写は、例えば小説『あ・うん (A Un : Their Minds Work The Same Way)』 [向田邦子 (Kuniko Mukoda) 作 1981年刊行] では、二・二六事件 (February 26 Incident) [1936年] 前夜の光景としてそれは顕れる。
ある時期を描いた物語の、その一挿話としては、その物語の本流としては勿論、傍系の一景として登場する事は決して少なくはない。
但し、視点を裏返せばある時季の我が国では、それは日常の一景であったのかもしれない、と謂う事も出来てしまうし、仮に他国であれば今尚、この歌の叙景が常態化しているかもしれないと謂うところまで想像は及ぶ。
また、その叙景を凄まじく抽象化する事が出来れば、極限状態に置かれた人間の行動と看做す事も出来よう。ある意味で、ひとに内在する哀しい性が、その顕現と謂う事も出来る。