僕は地下鉄の先頭車輌に乗っている。時間は早く、乗客はまばらで立っているのは、僕も含め2〜3人。殆どの乗客はシートに深々と腰を落とし、浅い眠りと深い疲れを行きつ戻りつしている。
僕は、その先頭車輌の一番前の乗降口にいる。座席と乗降口の狭間に背を預けて、ゆらりその車輌の揺れるがままに任せている。眠くはない。眠くはないのだ。
電車がホームに滑り込む。ほの暗い内臓から吐き出される様に車輌は、妙に白々と明るいホームに滑り込む。昇り階段を通り過ぎる。待ち合いのベンチを通り過ぎる。新設されたばかりのエレベーターと工事中の昇り階段を通り過ぎる(エスカレータが新たに設置されるのだろうか)徐々にスピードが落とされて行く。また階段を通り過ぎる。開店準備中のキオスクを通り過ぎる。ゆっくりと車輌は止まる。
何人かの人々が僕の眼前を通り過ぎる。その前に乗降口の扉は開くのだけれども。電車は発車する。その前に乗降口は閉ざされるのだろうけれども。ナニモノかが大声を上げてホームをこちらに向けて奔って来る。その前に、ホームにいる駅員が出発の合図をするのだけれども。駅名をコールするアナウンスは聴いたのだろうか? ナニモノかがナニモノかを罵倒する声が谺する。階段を駆け降りて車輌に飛び込もうとする人々のイキが聴こえる。ちまみれの鈍い音がする。まもなく発車すると車掌のアナウンスが聴こえる。キオスクの店員だろうか、殴り倒される音がする。乗降口の開く音が響く。
そして、それが駅に新たに着く毎に、三度繰り替えされる。