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2005年12月28日

動物が実る植物(inspired by 『また ぶたのたね』 by 佐々木マキ)

佐々木マキの新作、絵本『また ぶたのたね』(絵本館)にはタイトル・ロール?の豚の生る木が登場するが、澁澤龍彦に薫陶を受けた人間ならば、否が応でも思い出さざるを得ないのが、「スキタイの羊」や「マンドラゴラ」や「ワクワクの木」だろう。つまりは、植物から誕生する動物、もしくは動物を果実とする植物の事である。

ものづくし(click in the world!)  20. :

動物が実る植物

羊が生る植物、「スキタイの羊」もしくは「バロメッツ(タカワラビ)」と呼ばれる植物に関しては、澁澤自らが『羊の物語』(河出文庫幻想博物誌』)で詳細に語っている。私もこの文章が収められている同文庫で、新卒で就職した会社を離れたばかり、二回目の浪人時代に読んだ。澁澤龍彦の文章は、もてあますばかりの時間を蕩尽するのには丁度良くて、例え文庫本と言えども、通勤電車内の様な慌ただしさの中で、味わうべき類いのものではない。
この文章でも、14世紀のイタリアのポルデノーネ生まれのフランチェスコ会の宣教師が著わした紀行文の紹介から始まって16世紀初頭のスロヴェニアの外交官の見聞録を経て、かの南方熊楠による論考に至る。つまりは、「スキタイの羊」を指標として、悠揚とシルクロードを数世紀に渡って経巡る、”書物による”遥かな時空の旅とも呼べるものである。

勿論、人間が生る木である「マンドラゴラ」やその亜種「アルラウネ」も澁澤龍彦が詳細に「羊の物語」とは別の論考で語っているが、私が最初にこの植物を知ったのは、児童向けの『世界妖怪図鑑』(立風書房 ジャガーバックス)。ただし、現在では入手困難で古書店でもかなり高額らしい。
また、断頭台から流れる血を啜った「マンドラゴラ」が成長した絶世の美少女といわれる亜種「アルラウネ」はドイツの作家H.H.エーベルスがその伝説を換骨奪胎した、その名も『アルラウネ』(国書刊行会)という幻想小説もあるが、これも見事に廃刊。
これらの様な入手困難な本をこれ以上紹介するのもいかがなものだろうか。仕様がない。ほぼ同じ時期に出会った、現在でも容易く入手できる次の書物を紹介しておく。
その一冊とは、鴨川つばめのマンガ『マカロニほうれん荘』。地中より生えた不気味な植物を引き抜くとその根と化していたきんどーちゃんが「きゃーきゃーきゃーきゃー」と、大声で叫ぶ。これは、「マンドラゴラ」伝説のひとつ、「大地より引き抜かれる時に金切り声をあげる」をパロディ化したものだ。そして、その金切り声を聴いたものは死んでしまうか発狂してしまうが為に、独特の採集方法が考案された。その方法はこちらで詳述されているので興味ある御仁は観られたし。

ところで、最後にワクワクの島になるワクワクの木を紹介すべきだろうが、この木だけはいつどこで初めて見たのか、とんと思い出せない。この木を主題にした所幸則の作品集『ワクワクの木』でも観てもらってお茶を濁そう。

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