2006年01月14日
『エルビス・オン・ステージ』をNHK-BS2で観る
様々な音楽的な冒険の時代であった1960年代にあって、時代に取り残された元アイドルのイメージの強かったキングことエルビス・プレスリー( Elvis Presley)が、アイドルからアーティストへの脱皮に成功する、その端緒となった1970年の作品『エルヴィス・オン・ステージ』を観る。
映画は、その後延々と続く事になるラスベガス公演の1970年のステージとそこへ至るリハーサル・シーン等、一人のミュージシャンとしてのキングの姿を丁寧に収めている。
バンド・アンサンブルのセッションから始まって、その結果を受けてのコーラス隊のリハーサル、そして最後にはホーン・セッションを含めてのゲネ・プロと、ライブ・イベントを成立させるために経なければならない音楽制作の現場を、キングを中心に据えて撮影していく。時には、彼の人間臭い表情や、ミュージシャンとのたわい無いジョークのやり取り等も交えて描かれていくその過程は、エルビス・プレスリー( Elvis Presley)という人物を適格に表現している。
一度でも音楽制作に携わった事のある人間から見れば日常茶飯事でくり返される作業、その作業をごく当たり前に現場をプロデュースする人間としてこなしているキングの姿は、ポップスターとしてのエルビス・プレスリー( Elvis Presley)というイメージで見れば、驚きの連続なのかも知れない。そこにいるのは、アイドルではなくて、一人のクリエイターなのだ。
そして、さらに圧巻なのは本編でのクライマックス、ラスベガスでのステージ。「ラブ・ミ−・テンダー(Love Me Tender)」をバックに、ステージに駆け寄る女性ファン一人一人にキスをしていく。そして、あまつさえステージを降りて、ファンにもみくちゃになって、また一人一人、握手をしキスをしていくのである。
アーティストがステージと客席の垣根を超える為に行うパフォーマンスは多々あるけれども、この人は僕が今まで観た事のあるものと全然違う事をやっていたのだなと思う。
例えば、映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』でスタジアムをSPを引き連れて練り歩くミック・ジャガー/ザ・ローリング・ストーンズ(Mick Jagger/The Rolling Stones)とも違う。
勿論、何度となくステージから客席へと何度となくダイブするジェロ・ビアフラ/デッドケネディーズ(Jello Biafra/Dead Kennedys)とも違うし(参考:Dmpo's on Broadway)、ステージ上に積み上げられたPAから自殺行為すれすれ(もしかしたら殺人行為?)のダイビングをするビリー・ミラノ/S.O.D( Billy Milano/S.O.D)とも違う(参考:ライヴ・アット・ブドーカン)。
少なくとも、アイドルと言う座から降りたのは確実なんだけれども。果たして降り立ったその地点は、なんなのか?
最後に、この映画のサウンドトラック盤は、母の数少ないレコードコレクションの内の1枚。
その息子はその作品を聴く事はめったになかったのですが、キングをカヴァーしたアーティストの作品はいくつもあります。
最後に、その作品群を列挙して、この文章を終わりたく思います。
ものづくし(click in the world!) 22. :
パンク〜ニューウェイブ世代にとってのエルビス作品
●デッド・ケネディーズ(Dead Kennedys):ラスベガス万才(CD『暗殺』収録)
●トイ・ドールズ(The Toy Dolls):ブルー・スウェード・シューズ(CD『トゥエンティ・トゥ・チューンズ・フロム・トウキョウ』収録)
●ニックケイブ&ザ・バッド・シーズ(Nick Cave & The Bad Seeds):イン・ザ・ゲットー(CD『From Her to Eternity』収録)
●レジデンツ(The Residents):エルビス・プレスリー( Elvis Presley)トリビュートアルバム『The King & Eye』ハートブレイクホテル他全21曲
●ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)監督作品:映画『ミステリー・トレイン』:エルビス・プレスリー( Elvis Presley)の亡霊を狂言まわしとしたオムニバス映画。永瀬正敏、工藤夕貴、ジョー・ストラマー他出演
●同サウンドトラック・アルバム『ミステリー・トレイン』 音楽:ジョン・ルーリー
posted =oyo= : 04:26 | comment (0) | trackBack (0) | ものづくし (click in the world!) /映画もみる
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.rtm.gr.jp/mt/mt-tb.cgi/224