2006年01月29日
『ファーストボーン・イズ・デッド』 by ニック・ケイヴ & ザ・バッド・シーズ(THE FIRSTBORN IS DEAD by NICK CAVE & THE BAD SEEDS)
「女の唄なんか歌ってたまるもんか」と内心で思いながらも、結局はライブの最終曲として”女の唄”すなわち、「From Her To Eternity(タイトル自体は邦題『地上(ここ)より永遠(とわ)に』として知られている映画『From Here To Eternity』のパロディ)」を歌わざるをえない男、それがこの男、ニック・ケイヴ(NICK CAVE)である。
と、言うのは、真実かどうか、俺は知らない。
これは、地上に舞い降りた堕天使と、職を失った地上の天使=空中ブランコ乗りが出会う奇跡を描いた映画、その映画のクライマックス・シーンで演じたニック・ケイヴ(NICK CAVE)の役回りなのだから。
ちなみに、その映画、『ベルリン・天使の詩(ヴィム・ベンダース/Wim Wenders監督作品)』と言う。
しかし、ニック・ケイヴ(NICK CAVE)と彼が率いるバンド、ザ・バッド・シーズ(THE BAD SEEDS)は、それだけの役回りで出演しているのではない。映画の舞台装置である西ベルリンを象徴するサウンドとして、彼等と彼等の周囲のアーティスト達の音楽が随所に使用されているのだ。
と、いうよりも西ベルリンが生み出した「うた」と「音楽」が彼等なのだ。
アルバムタイトル『ファースト・ボーン・イズ・デッド(THE FIRSTBORN IS DEAD)』とは、エルビス・プレスリー(Elvis Presley)の半ば神話化された出生時のエピソード(双児として誕生し、先に生まれた児は死産だった)から取られていると同時に、アルバム冒頭を飾るドラマティックなブルース・ナンバー「テュペロ」の一節でもある。ちなみに「テュペロ」とは、エルビスの生誕の地でもある。
さらにだめ押しで書くと、現在は前作であると同時にファーストソロ作品『フロム・ハー・トゥ・エタニティ(From Her To Eternity)』(つまりは女の唄がタイトル・チューンとなった)に追加収録されてはいるが、『ファースト・ボーン・イズ・デッド(THE FIRSTBORN IS DEAD)』の先行シングルとして発表されたのがエルビス・プレスリー(Elvis Presley)のカヴァー「イン・ザ・ゲットー(In The Ghetto)」なのである。
それはつまり、1977年に死去したエルビス・プレスリー(Elvis Presley)の墓を暴き、その腐臭に満ちた亡骸を暴き出す行為なのだろうか?それとも、別の意図があったのだろうか?(パンク・ムーブメント全盛時代に亡くなった彼自身とその彼の死は、その肥大した肉体と肥大化した幻想で、その当時、揶揄やシニカルな笑いの対象であった事は、ここに明記しておく。)
かつてこのブログでパンク・ムーヴメントは、3分間のロックンロールや3分間のポピュラー・ミュージックの再生であると書いた(『『プレゼンス』 by レッド・ツェッペリン(PRESENCE by LED ZEPPELIN)』参照)。そのパンク・ムーブメントの拡大系/拡散系のニュー・ウェイヴは、ありとあらゆるジャンルの音楽の再生を謀ったという視点で語る事は可能である。
例えば、これも本ブログで取り上げたザ・スタイル・カウンシル(THE STYLE COUNCIL)の『カフェ・ブリュ(CAFE BLEU)』の様に、硬直的だった音楽のジャンルの壁が取り払われ、ありとあらゆる音楽が等価なものとなり、貪欲なアーティストによって様々な音楽ジャンルが個々の鋭い感性によって、大胆にも導入されていった一例と言えよう(『『カフェ・ブリュ』 by ザ・スタイル・カウンシル(CAF BLEU by THE STYLE COUNCIL)』参照)。
それと同様に、ニック・ケイヴ(NICK CAVE)のその「うた」は、エルビス・プレスリー(Elvis Presley)がポップアイコンとして大成する事によって置き忘れてきたものの再生を意図しているのではないだろうか?
「黒人の様な声で唄う事の出来る白人シンガーがいれば大成功する」ーつまりは、充分に成熟した音楽性を持っていながらも、差別意識があるが為に白人中産階級(そしてそれは第二次大戦後、大きなマーケットとして成長している)をターゲットに出来なかったブラック・ミュージックが陥っていたジレンマ、それを昇華したのが「黒人の声で唄う白人」エルビス・プレスリー(Elvis Presley)だった事を、思い起して欲しい。
ニック・ケイヴ(NICK CAVE)は唄う。本来ならばエルビス・プレスリー(Elvis Presley)が唄うはずだったアーバン・ブルースを。しかも、エルビス・プレスリー(Elvis Presley)の時代では考えられなかった程に、暴力的に挑発的にそして退廃的に。
何故なら、ニック・ケイヴ(NICK CAVE)が唄う地は、ブルースを育んだミシシッピ川流域の米南部デルタ地帯でもなければ、成功したエルビス・プレスリー(Elvis Presley)が毎年登場した砂漠の中の歓楽街、ラスベガスもない。その地は、第二次世界大戦後の冷戦構造が生み出した歪んだ都市、西ベルリンだから。
次回に続く。
ものづくし(click in the world!) 23. :
『ファースト・ボーン・イズ・デッド』
by ニック・ケイヴ & ザ・バッド・シーズ
(The Firstborn is Dead by Nick Cave & The Bad Seeds)
THE FIRSTBORN IS DEAD
NICK CAVE AND THE BAD SEEDS
Side A
TUPELO(music:Adamson/Harvey words:Cave)
SAY GOODBYE TO THE LITTLE GIRL TREE(music:Harvey words:Cave)
TRAIN LONG-SUFFERING(music and words:Cave)
THE BLACK CROW KING(music:Blixa Bargeld/Cave words:Cave)
SIDE B
KNOCKIN'ON JOE(music and words:Cave)
WANTED MAN(music and words:Bob Dylan)*
BLIND LEMON JEFFERSON(music:Barry Adamson/Bargeld/Cave/Harvey words:Cave)
All songs published by Dying Art Ltd/Sonet Ltd except * Warner Bros.Music Ltd.
Al Lyrics by Nick Cave
Recorded:November-December,1984,Hansa,Ton-Studios,West Berlin
Enginner:Flood,Ass.Engineer:George
Produced:The Bad Seeds,Flood
Front/Back Photographs Jutta Henglein
Nick Cave And The Bad Seeds are:
Nick Cave:Vocals,Harmonica
Barry Adamson:Bass,Guitar,Organ,Drums,Backing Vocals
Blixa Bargeld:Guitar,Slide Guitar,Backing Vocals
Mick Harvey:Drums,Piano,Guitar,Organ,Bass,Backing Vocals
Nick Cave's Personal Representation
-Loud and Clear Management
(P) & (C)1985 Mute Records
上記クレジットは英国ミュート・レーベル(Mute Records)から発売されたオリジナル盤に準拠しています。現在CDとして入手できるジャケットは、本来は表4(裏ジャケット)に掲載されたザ・バッド・シーズの3人(ブリクサ・バーゲルト/Blixa Bargeld、バリ−・アダムソン/Barry Adamson、ミック・ハーヴェイ/Mick Harvey)のものに差し換えられています。
なお、この下で紹介しているのは米ホームステッドレーベル(Homestead Records )で発売された12インチ・シングルで「テュペロ(TUPELO)」と「イン・ザ・ゲットー(In The Ghetto)」と他2曲が収録された強力盤。個人的には、英オリジナル盤よりもこちらを愛聴しています。ジャケットのデザインはブルースの秘蹟チェス・レーベル(Chess Records)のフォーマット等を意識したデザインです。入手困難かと思われます。
side A
TUPELO(Words;Cave Music;Harvey/Adamson)
side B
IN THE GHETTO(Davis)
THE MOON IS IN THE GUTTER(Cave)
THE SIX STRINGS THAT DREW BLOOD(Cave)
Published by Dying Art Ltd./Sonet Ltd.except track 1
Published by Screen Germs/EMI Music Pubs.Ltd.
THE BAD SEEDS are
Barry Adamson
Mick Harvey
Blixa Bargeld(Non Reciprocal,Some Bizzare)
Hugo Race played Guitar on The Moon is in The Gutter.Tupelo
recorded at Hansa Studios,Berlin.December1984.
In The Ghetto & The Moon is in The Gutter Recorded at Trident,London.March1984.
Six Strings... Recorde at Trident,London.March1985.
Produced by Flood & The Bad Seeds.
Sleeve Photo:Bleddyn Butcher(Front) Jutta Henglein(Back).
(P) & (C)1985 Mute Records
Homestead Records HMS029
Jacket Made in Canada
Manufactured & Distributed By:Dutch East India Trading
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コメント
>うささん
覚悟があろうがなかろうが公表しちゃった以上は、身にかかる火の粉は自らの手で振払わなければなりません。
言葉は、諸刃の剣であると同時に、ブーメランの様でもあります。
遅かれ早かれ、それは我が身に返ってきます。
投稿者: たいとしはる feat.=OyO= | 2006年02月01日 03:33
誠実なお応えありがとうございます。
言葉が過ぎたかもしれません。
ルイちゃんごめんね。
うまく言えないんですけれど、「言葉」が好きで、ご飯のタネにもしているので、
自分勝手な範囲みたいのが自分にあるんだと思います。
あたりさわりのないきれいなことばも、
おもいだけのベタベタなことばも、
タダだからって、ただ放り出しちゃう感じが嫌。
何を書いてもご存分になのですが、覚悟はああるのかな〜? って思っちゃったのですわ。
とかいいながら、最近 嶽本野ばら(http://members.jcom.home.ne.jp/0134245302/index2.html)
やらブライス(http://www.blythedoll.com/)に心引かれるあたりが、オバ道まっしぐらなのかも〜?
なので、気にしないでください。
投稿者: うさ | 2006年02月01日 01:05
>うささん
手厳しい御意見を承り、ありがとうございます。
>何がホントに思ったことで、
>何を「引き出し」からひねり出してるのか、よくわからん
のは、おそらく主張ありきで題材を選んでいるのではなくて、その逆だからでしょう。
るいに関しては、当人が自覚すべき事です。追って本人自らの発言があるやも知れませんが、うささんのコメントは私宛の様なので、取り急ぎの回答です。
当初は、ハードルやスタイルを限定して(されて)いたんですが、最近は表現の選択肢が増えている様です。その分、精度が落ちているかもしれません。まぁ、もうちょっと長い眼で見守って下さい。
これからも、今回の様な辛口のコメントをお待ちしています。
投稿者: たいとしはる feat.=OyO= | 2006年01月30日 00:55
うーん。
最近の動向からすると、何がホントに思ったことで、
何を「引き出し」からひねり出してるのか、よくわからんな。
コメントのしようがないってのはある。
ついでにルイちゃん、ちょいとキモいので、師匠なんだからちゃんと指導してくださいね。
としはるさんにはわかってるはず。
久々に来て、あなたが見てるのに進歩ないのかな?って ちょっと責めたい気分になった。
まぁ、自分はB級趣味なんで気にしなくてもいいんですけどね。
自覚の無いたれ流しは嫌い。(確信犯ならよし)
投稿者: うさ | 2006年01月30日 00:03
>ricoさん
お誉めにあずかり光栄です。
次回は、書かれている内容に踏み込んだコメントを、お待ちしております(^^;)。
投稿者: たいとしはる feat.=OyO= | 2006年01月29日 11:15
あははは、いいっ、この絵最高!
画像UPも、よくできました。
ぱちぱちぱち。
投稿者: rico | 2006年01月29日 04:05