2006年03月30日
『スラップ・ハッピー』 by スラップ・ハッピー(Slapp Happy by Slapp Happy)
一介の中古レコード店から全世界を網羅するレコードショップ・チェーンと巨大レコード・レーベルを起こしてワールドワイドな成功を手中にしたかと思ったとたんに航空業界に参入し、今やその肩書はナイト(Knight)の称号をもつ冒険家で..という根っからのヒッピー根性を相変わらず大爆発させているのが、Virgin Groupのサー・リチャード・ブランソン(Sir. Richard Branson)。その彼のそもそもの出発点となったレコード・レーベル、ヴァージン(Virgin Label)の創世記を語る作品である。
レーベルの最初期に大ヒットを記録したのが、映画『エクソシスト(THE EXORCIST)』に起用されたマイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)のアルバム『チューブラー・ベルズ(Tubular Bells)』(1973年発表)なのだけれども、最初のシングル・ヒットはここで紹介する スラップ・ハッピー(Slapp Happy)の本作からのシングル・カット曲「カサブランカ・ムーン(Casablanca Moon)」。
タンゴ(tango)のリズムに哀愁のヴァイオリンが奏でる調べ、コケティッシュな女性ヴォーカルをフィーチュアしたその曲は、1970年代前半にはプログレッシブ・ロック(progressive rock)を、その後半にはパンク(punk)を、1980年代にはニュー・ウェイヴ(new wave)をと、時代時代の最先鋭のアーティスト/作品を送りだした同レーベルとは思えない程の、ノスタルジックでアナクロニズムに満ちた、良質なポップ作品である。
但し、それはあくまでも観た目に限っての話。
1974年発表年当時のヴァージン(Virgin Label)レーベルロゴ(図版:左イラスト及びデザインはロジャー・ディーン / Roger Dean)と、現在のヴァージン(Virgin Label)レーベルロゴ(図版:右)。
メンバーは、 アンソニー・ムーア(Anthony Moore ♂:from UK 現代音楽作家?)、 ピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad ♂:from USA 放浪の吟遊詩人?)そして ダグマー・クラウゼ(Dagmar Krause ♀:from Germany 七色の声を持つ唄い手?)の3人。
この出身も出自も異なる3人がどこでどうやって邂逅してこのバンドを結成したのかは、実のところ良く解らない。そもそもは、ドイツ・ポリドール(polydor)から2枚の現代音楽作品を発表していた アンソニー・ムーア(Anthony Moore ♂:from UK 現代音楽作家?)がレコード会社の命により、売れる作品を発表せよという大命題を突き付けられたから、という話も伝わって来ているが、その真実はやっぱり解らない。
解っているのは、この3人をメインに据えたファースト・アルバム『sort of』(1972年発表)が、当時から既に神話化されていた ファウスト( faust)をバック・メンバーに迎えて制作され、それを受けて早速第2作が制作されるもレコード会社の意向で発売拒否。幻となってしまった第2作収録楽曲を基に、新たに再レコーディングしてヴァージン(Virgin Label)から発表されたのが本作品という次第。後に、幻の作品は『acnalbasac noom - casablanca moon』(タイトルのacnalbasac noomはcasablanca moonのアナグラム)として陽の目を観て、今では普通に入手可能です。
本作品発表以降の、 ヘンリー・カウ( henry cow)とのコラボ作品やその結果としての スラップ・ハッピー(Slapp Happy)の発展的解消、さらに個々人の三者三様の活動と1998年の再会という物語は別のところで書くとします。
それよりも、やはりここで書いときたいのは、ポップであるという意味。
個人的な見解で言うと、殆ど同一の楽曲が収められている『acnalbasac noom - casablanca moon』と『Slapp Happy』を聴き比べると、ポップ度という観点からすると前者の方が高い様な気がするし、それ以上に、実はファースト・アルバムの『sort of』の方が、さらにポップな気がします。ただ、ここで言うポップと言う言葉は、「ポピュラリティ(popularity)」という意味よりも、いわゆるポップアート(POP ART)のポップ(POP)。聴き易すさとか洗練度という意味つまりは「ポピュラリティ(popularity)」という観点では、他2作品と比べて段違いに、本作が秀逸である事は論を待たない。
そもそも、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)やロバート・ラウシェンバーグ( Robert Rauschenberg)やロイ・リキテンシュタイン(Roy Lichtenstein)やジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns)らの一群の作品を差す言葉「ポップ(POP)」は、リチャード・ハミルトン(Richard Hamilton)のコラージュ作品『今日の家庭を,こんなに違った魅力あるものにしているのは,一体何か?(原題:Just What Is It that Makes Today's Homes So Different, So Appealing?)』に唐突に出てくる言葉から名付けられたに過ぎない。つまり、ポップ・アートでの「ポップ(POP)」は、突発性とか偶然性とか雑食性と解すべきで、「ポピュラリティ(popularity)」とは似て非なるなるものと認識すべきであろう。
だから、英国出身の現代音楽作家(?)と米国出身の 放浪の吟遊詩人(?)とが、七色の声を持つ女性シンガー(?)と「突発」的に「偶然」に出会い、これまで各々が培って来た音楽の土壌を融合させて出来上がったのが、このバンドなのである。
だから、彼らの本作までの歩みは、言うなれば、渾沌から洗練への歩みと言えるだろうし、ポピュラリティの獲得とも言えるだろう。
ところで、このポピュラリティ獲得への道は、なにも彼らだけの話ではなくて、インデペンデントな活動とその結果としてのクオリティの高い作品を発表してきたアーティスト達が、ヴァージンでメジャーデヴューする際に、辿る道でもある。1980年代中葉、大好きだったバンドがヴァージン(Virgin Label)移籍を発表した際に味わう、軽い失望感。つまりは、洗練される事によって失われるプリミティヴな輝きを、僕達は怖れたものでした。
そういう意味では、本作品は洗練されると同時に、その輝きは決して損なわれる事のなかった希有な作品とも言えるでしょう。
今回はいつにも増して竜頭蛇尾な観が強い文章です。こんどちゃんと書きますね?
ものづくし(click in the world!) 27.:
『スラップ・ハッピー』 by スラップ・ハッピー
(Slapp Happy by Slapp Happy)
Slapp Happy
Anthony Moore - Dagmar - Peter Blegvad
スラップ・ハッピー
SIDE ONE
カサブランカ・ムーン
"Casablanca Moon"
(Moore - Blegvad)
drums : Marc Singer
bass : Dave Wintour
violin : Graham Preskett
backing vocal : Roger Wootton
私とパーヴァティ
"Me and Parvati"
(Moore - Blegvad)
drums : Eddie Sparrow
bass : Jean Herve-Peron
violin : Graham Preskett
cello : Clare Deniz
backing vocal : Roger Wootton
ハーフ・ウェイ・ゼア
"Half Way There"
(Blegvad)
congas,whistle etc. : Eddie Sparrow
mandolin : Graham Preskett
double bass : Nick Worters
ミケランジェロ
"Michaelangelo"
(Moore - Blegvad)
drums : Eddie Sparrow
sausage bassoon : Jeremy Baines
mandolin : Graham Preskett
jugs : Andy Leggett
ドーン
"Dawn"
(Moore - Blegvad)
drums : Clem Cattini
bass : Dave Wintour
trumpet : Henry Lowther
backing vocal : Roger Wootton
ミスター・レインボウ
"Mr.Rainbow("Jeune Goinfre" by Arthur Rimbaud)"
(Blegvad)
drums : Clem Cattini
bass : Dave Wintour
SIDE TWO
秘密
"The Secret:(My Hero In Wonderful Clothers)"
(Moore - Blegvad)
drums : Eddie Sparrow
bass : Jean Herve-Peron
saxophones : Geoff Leigh
ア・リトル・サムシング
"A Little Something"
(Blegvad)
congas : Eddie Sparrow
bass : Jean Herve-Peron
violin & arrangement : Graham Preskett
double bass : Nick Worters
cello : Clare Deniz
jug : Andy Leggett
backing vocal : Roger Wootton
ザ・ドラム
"The Drum"
(Moore - Blegvad)
drums : Clem Cattini
bass : Dave Wintour
tablas : Keshave Sathe
俳句
"Haiku"
(Moore - Blegvad)
saxophones : Geoff Leigh
percussion : Eddie Sparrow
tamboura : Keshave Sathe
backing vocal : Roger Wootton
スロー・ムーンズ・ローズ
"Slow Moon's Rose"
(Moore)
drums : Eddie Sparrow
bass : Jean Herve-Peron
saxophones : Geoff Leigh
Lead Vocals : Dagmar
Second Vocals : Peter Blegvad
Keyboards : Anthony Moore
Recorded,thanks to everyone,at the Manor and CBS
Produced by Slapp Happy and Steve Morse
Mixed and engineered by Simon Heyworth and Steve Taylor
All titles written by Anthony Moore and Peter Blegvad except "Mr.Rainbow","A Little Something" and
"Half Way There" by Peter Blegvad and "Slow Moon's Rose" by Anthony Moore
Cover photographed by David Larcher
Cover design by Carol Aitken
僕の持っている国内盤、VICTORから「第2期ヴァージン・オリジナル・シリーズ・」として発売されたアナログ盤には山田道成氏の解説が添えられています。
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まずは、この奇妙なアルバム・ジャケットの話から。 デザインを担当したのは、かのヒプノシス(HIPGN... [詳しくはこちら]
コメント
> Smithf854
Thnks your comment.
I'll try to do my best.
投稿者: =OyO= | 2014年08月10日 21:56
You could certainly see your skills within the work you write. The world hopes for more passionate writers like you who arent afraid to say how they believe. Always follow your heart
投稿者: Smithf854 | 2014年08月10日 21:38
> Smithf755
Thanx your comment.
It's very interesting for me.
投稿者: =OyO= | 2014年07月01日 09:17
I like this post, enjoyed this one regards for putting up. The goal of revival is conformity to the image of Christ, not imitation of animals. by Richard F. Lovelace.
投稿者: Smithf755 | 2014年07月01日 04:26
>うささん
>音が浮かんできましたよ。
って、文章を使う者に対しての、キラー褒め言葉ですね。どうもありがとうございます。
捜して聴いた感想とか、またお聞かせ下さい。
投稿者: たいとしはる feat.=OyO= | 2006年06月08日 00:22
おお、懐かしい。
読んでいたら、音が浮かんできましたよ。
探してみようかな。ありがとう。
投稿者: うさ | 2006年06月07日 22:23