2006年07月02日
『オート・ダ・フェ』 by SPK(Auto Da Fe by SPK)
精神病患者とその看護師が結成した音楽ユニットと書くと、どういうものを想像するのだろうか?そして、一体、彼らはどんな音楽を奏でると想像するのだろうか?
勿論、その音楽は万人向けのものでもないし、だからと言って精神病治療の一環として行われた医療行為でもない。
だろう、恐らく。
どちらかと言えば、その精神病者の観るひずんだ夢やゆがんだ視野を、さらに拡大して肥大化させるものと、一般の音楽リスナーは思うだろう(余談だけれども、「ひずんだ」も「ゆがんだ」も「歪んだ」って書くんですね)。
でも、メロディ・リズム・ハーモニーといった音楽の三要素の箍をとっぱらい、ただ只管に大音量の音響に身を委ねている事のキモチよさも忘れる事は出来ない。
だから、無自覚にあなたに勧める事はしないけれども、僕は好きですと、ここでは書いておく。
作品のコンセプトや方法論によって、Surgical Penis KlinikとかSystem Planning KorporationとかSocialist Patients Kollektivとか、様々な変名?を名乗るSPK(エス・ピー・ケー)は、精神病患者ニール・ヒル(Ne/H/il)とその看護師グレアム・レベル(Graeme Revell)によって1978年シドニー(Sydney)にて結成された音楽ユニットである。今回紹介するのは、その名も SePpuKu(切腹?)名義で発表された、彼らの代表曲のごく一部を収めるコンピレーション・アルバム。
アルバム・タイトル『auto da fe』は「火刑」の意。ジャケット表に掲載されたのは、恐らく清朝末期の罪人?のもの。この三人がこの後、「火刑」を科せられたか否かは解らない。出典が明らかではないからだ(御存じの方は一報願います)。
アルバムには、1983年に雑誌『Re Search』に、SPK(エス・ピー・ケー)名義で発表されたと思しき小論考と、この他に拷問もしくは身体拘束、そしてそれらを連想させるいくつかの図版が掲載されている。
カフカ(Franz Kafka)の短編「流刑地にて」に登場する処刑機械[M.カルージュ(Michel Carrouges)言うところの代表的な"独身者の機械"]のオブジェは言うまでもなく拷問/身体拘束機械だけれども、『メトロポリス(Metropolis)』[勿論、手塚治虫の初期傑作ぢゃあなくてフリッツ・ラング(Fritz Lang)監督作品]のワンシーンや『怪談(Kwaidan)』[小林正樹(Masaki Kobayashi)監督作品]の経文を顔一面に書かれた芳一(演:中村賀津雄)のアップも引用されている、これらは本来は拷問/身体拘束からは離れたものだけれども、ジャケットに掲載された三人の罪人のイメージに引き摺られて、新たな拷問/身体拘束の説話を物語始める。
ジャケットに掲載されている図版そのものではないが、関連図版として:『流刑地にて』に登場する処刑機械平面図(上図)、『メトロポリス』のヒロイン=マリア(中図)、『怪談』で経文を書かれる芳一(下図)
SPK(エス・ピー・ケー)を知るものが本作品を聴くと、意外に音楽的に構築されていて驚くでしょう。僕も驚いた。
収録されているいくつかの楽曲は、当時全盛を極めたエレポップへのまるで悪意に満ちたオマージュの様だ。先程の言説を覆す様だけれども、ここには(一般音楽リスナーの許容範囲を越えているかもしれないけれども)メロディもリズムもハーモニーもある。
だから、この作品を聴いてSPK(エス・ピー・ケー)を理解したとする事は出来ないし、だからと言って入門編とする事も出来ない。だけれども、彼らの最も重要なメッセージが託されているとされる、その名も「slogun」という曲はここに収録されている。
ものづくし(click in the world!) 33.:
『オート・ダ・フェ』 by SPK(Auto Da Fe by SPK)
SePpuKe
Auto Da Fe
01.Contact
02.Germanik
03.Mekano
04.Retard
05.Slogun
06.Metal Field
07.Walking on Dead Steps
08.A Heart that Breaks(In No Time or Place)
09.Another Dark Age
10.Twilight of the Idols
11.Culturecide
Booklet images
page 4,drawing by a 12 - year old pupil - ErziehungsflageIIantismus,Vienna 1932
page 5,life - size reconstruction of tatoo / torture machine from Franz Kafka's The Penal Colony,Vienna 1948
page 7,still from Metropolis - Flitz Lang,1926
page 8,still from Kwaidan - Kobayashi,1965
Back Cover images
inset,autoerotic suicide of a farm worker by self - chaining
the grey area of mute records 429 harrow road,london w10 4re,u.k.
Compuct disc edition planned & supervised by B.Lustmord
(P)Side Effects 1979 - 1983
(C)the grey area of Mute records 1993
All tracs Fiction Songs Limited
Tracks 1 -5 / 1978 - 1979
Tracks 6 -8 / 1981
Tracks 9 - 11 / 1982
Design by Disinformation
M.F.D by Alfa Records,Inc.Tokyo,Japan.
日本盤CDのライナーノーツは石井孝浩氏(Fool's Mate)が執筆されています。
実は一番最初のSPK(エス・ピー・ケー)体験はやはりSePpuKu名義で発表された三曲収録のミニ・アルバム『Dekompositiones(日本盤も発売されて邦題は『腐敗』)』です。既に、ニール・ヒル(Ne/H/il)はバンドを離脱しただけで無く、自らの生命を絶ってしまった後、グレアム・レベル(Graeme Revell)が女性ボーカリスト、シナン(Sinan)をフィーチャーした新体制をスタートした最初の作品。
呪術的なシナン(Sinan)のボーカリゼーションとメタル・パーカッションをフィーチャーしたそのサウンドは、当時のノイズ/インダストリアル的なアプローチをしているバンドの中でも、充実した作品だと思っていました。勿論、SPK(エス・ピー・ケー)プロパーな熱狂的なファンから見れば、物足りないものっだたかもしれません。この作品を発表した後に、SPK(エス・ピー・ケー)[と、言うよりもグレアム・レベル(Graeme Revell)フィーチャリング・シナン(Sinan)]は、事もあろうかメジャーデヴューを達成。そこでは腑抜けたディスコ・サウンド作品を発表してかつての面影を失っていました。ある意味で、SPK最期の輝きがミニ・アルバム『Dekompositiones』です。
現在は、その三曲共に、CD『Auto Da Fe』に収録されていますが、オリジナル・ジャケットの"可愛らしい"SePpuKu(切腹?)写真はCDブックレットに掲載されていないので、ここで発表しておきます。
SePpuKe
DEKOMPOSITIONES
S.P.K.(Seppuku)/腐敗
a.another dark age(アナザー・ダーク・エイジ)
b.twilight of the idols(トワイライト・オブ・ジ・アイドルズ)
culturecide(文明破壊)
Distributed by The Cartel
Side Effekts Rekords.1 / Ibberton House.Meadow Road.LONDON SW8 IPS UNITED KINGDOM.
日本盤EPのライナーノーツは宮部知彦氏が執筆されています。
ジャケットのオリジナル画像と思しきもの。カラー図版を発見出来ました。
posted =oyo= : 19:51 | comment (0) | trackBack (0) | adventures of t.g.chaung /ものづくし (click in the world!)
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