2006年11月30日
グガン:イントロデューシング・タケオ・モリヤマ by 山下洋輔トリオとブラス12
山下洋輔の良き聴き手とは断言出来ないし、まぁ、もともと断言する必要はないと思うのだけれども、それよりは、山下洋輔の良き読み手かもしれないという、奢った邪な考えは時折、頭の中を掠めるのだ。
中高生の頃に学内で流行ったのが星新一と筒井康隆なのだけれども、おいら、そんなもん興味ないもんねとか言いながら、中原中也とボオドレエル(Charles Pierre Baudelaire)を読み耽っていたヤなガキでした。
それで、なんで山下洋輔との接点が出来るのかと言うと、NHK-FMでやっていたラヂオ・ドラマの帯番組(のようなもの?)で、彼の『ピアニストを笑え! 』を取り上げていたからでしょう。確か、『サウンド・ストリート』(DJに渋谷陽一や坂本龍一や松任谷正隆や甲斐よしひろが担当した帯番組)の後の枠で流れていた筈で、その枠を通じて、五木寛之『青年は荒野をめざす』とかナット・ヘンホフ(Nat Hentoff)『ジャズ・カントリー(Jazz Country)』とか発見したし...。そおいえばかの新井素子を"発見"したのは吾妻ひでお『不条理日記』ぢゃなくて、この番組だった。
当時は四ヵ国語麻雀やハナモゲラ語でタモリがTVに進出し始めた時期で、TV-CMで坂田明が「ちょう〜ちょお」と雄叫びを上げていた時代で、サンリオSF文庫と富士見ロマン文庫が注目されていた時代です(いやぁ、僕の周囲の半径5メートル界隈ですが)。
で、そのラジオ番組で朗読された山下洋輔の文章のビート感や音楽的な響きに感動して詠み始めたのかというと、そおゆう記憶はなぜかない。もしかしたら、タイトルからエルトン・ジョン(Elton John)の『ピアニストを撃つな(Don't Shoot Me I'm Only the Piano Player)』やその元ネタとなったフランソワ・トリュフォー(Francois Truffaut)監督作品『ピアニストを撃て(Tirez Sur Le Pianiste)』と混同してしまったのかもしれない。
それから、山下洋輔の文章を読みあさる訳ですが、大好きな件は、その後の山下洋輔のツアー記に何度となく登場する「パンツを履き替えたらお終い(アンコールはしない)」という事と、確か『ピアニストに御用心!』に収録されていた筈の筒井康隆の「笑いの表現」に関する考察です。この考察を読んでから、「ははははは」と入力する際には、きちんと「は」の数をカウントして推敲する様になりました。
文筆業の処女作となり、山下洋輔の評価を確かなものにする「ブルーノート研究」(『新編 風雲ジャズ帖』に収録)は、そんなに面白くなかった、というか、楽理に関する研究論文に後の山下洋輔的な面白さを発見しろというのも難しいもので..。
ところで、山下洋輔な面白さって何だろうって考えると、恐らく周囲の状況とはお構い無しという事ぢゃないだろうか?
山下洋輔 バイオグラフィーの最初期に「早稲田大学4号館 バリケード内で演奏」というものがある。大学紛争華やかりし頃、わざわざバリケード内でジャズを演奏するというもので、どういう意図があって行われたのか良く解らない。さらに良く解らない事に、これを田原総一朗演出の下で撮影されて「ドキュメンタリー青春」(東京12ch)として放送されたという事。そして、このイベントは立松和平のデビュー作『今も時だ』という短編小説も産み出している。
勿論、この映像は観た事はないのだけれども、バリケードという境界と、その境界の内部(=学生)と、境界の外部(=オトナ)を際立たせる為に、異物として投入されたのが若いジャズ・ミュージシャンだろうという推察は出来る。小説もその意図に導かれる様に、メディアのコマのひとつとしての己と音楽を演奏する己との内面の葛藤を描いていたと記憶している。
それを当の山下洋輔自身はどのように記述していたかと言うと...、己が担わされていた役割とは無関係にただジャズを演奏していたという風に書いていた。勿論、それは他の彼の文章同様な独特の言い回しと衒いを伴っての事だけれども。
それは、彼の処女小説となった『ドバラダ門』でも同じ事で、たまたま、明治時代に活躍していた西洋建築家の子孫だったが為に巻き込まれて行く、もろもろの事どもが最終的に収斂して、御先祖様が残した堅牢な門の前でピアノを演奏するという訳の解らない状況に辿り着く訳だけれども、それも結局は己のジャズを演奏するだけの事として捉えているのだ。
蛇足を承知で書いておけば、この小説は自身の体験に基づいて書かれているので、実際に祖父山下啓次郎の遺構である鹿児島刑務所旧正門前でピアノ演奏をしています。僕は、写真週刊誌でその模様を観た記憶があるのだけれども、はっきりいって、暗黒舞踏よりも異様な光景でした(てか、逆に暗黒舞踏は観馴れてしまっていたのかも?)。
と、ここまで、肝心の音楽の話を殆どしないでここまで来ていて、このまま終わりたいのだけれども、さすがにそーゆーワケにもいかないので、ちょっと書きます。
本作のタイトルはドラマー森山威男の楽曲が中心を占めた事によるものである事と、ドラム・ソロをフィーチャーしてブラス・アンサンブルとの対比を狙ったものだから。この作品が森山威男のデヴュー作であるとか、このトリオに加わっての初作という意味ではない。
ところで、山下洋輔によるオリジナル・ライナーノーツには、次の様な件がある。ちょっと長いけれども引用します。
「ドラム奏者が何かやりそうな気配がしたら、演奏しながら注意して観察し、もし顔面の筋肉を三度ケイレンさせたのち歯をむき出しながら左、右の順でトム・トムを叩いたら、次は80%の確率で0.5ないし0.1秒後に右のシンバルを叩くだろうから、叩いた場合はそれに合わせてこのフレーズを吹け。歯をむき出さなかった場合はダ・カーポ」
演奏中にこんな繊細でナイーヴな観察をしていたら、時代状況とかステージのまわりの景色とかはたまた光熱費の支払いの件とか、考えている暇はないですよね?
尤もトリオ間でのみ通用するこんなデリケートな"譜面"を他の11人のブラス・セクションにも手渡さなければならなかったそうですが?
ものづくし(click in the world!) 41.:
"グガン イントロデューシング・タケオ・モリヤマ" by 山下洋輔トリオとブラス12
INTRODUCING TAKEO MORIYAMA/Yosuke Yamashita trio with brass 12
A
1.ハチ
Hachi
(作曲/森山威男 編曲/山下洋輔・森山威男・中村誠一)
2.バラード・フォー・Y・Y
Ballade for Y.Y.
(作曲/森山威男 編曲/山下洋輔・森山威男・中村誠一)
B
1.テイク・ワン
Take one
(作曲/森山威男 編曲/山下洋輔・森山威男・中村誠一)
2.グガン
Gugan
(作曲/山下洋輔 編曲/山下洋輔・森山威男・中村誠一)
山下洋輔トリオ
Piano : 山下洋輔
Drums : 森山威男
Soprano,Tenor Sax : 中村誠一
オリジナル発売日 1971年12月1日
J・JAZZシリーズ監修:瀬川昌久
ALL COMPOSED BY TAKEO MORIYAMA
ALL ARR. BY T. MORIYAMA ,S. NAKAMURA, Y. YAMASHITA
Drums TAKEO MORIYAMA
Piano YOSUKE YAMASHITA
Tenor & Soprano sax SEIICHI NAKAMURA
Tenor sax HISAHIDE KATOH
Alto sax MABUMI YAMAGUCHI
Trumpet KUNIO FUJISAKI
Trumpet SUSUMU KAZUHARA
Trumpet TOHRU OOGOSHI
Trumpet KENJI YOSHIDA
Baritone MASAO SUZUKI
Trombone NAOKI TAKAHASHI
Trombone HISASHI NISHIMURA
Trombone HISASHI IMAI
Tuba KYOSUKE AIKAWA
Produced TADASHI HIRAKATA
Director HIROYUKI ASAOKA
Enguneer KENICHI KOSUGE
Photo & Dsign TADAYUKI NAITO
Recording Date SEPTEMBER,25. 1971 TOSHIBA STUDIO
オリジナル・ライナーノーツ:山下洋輔
僕が所有しているCDでは瀬川昌久氏が解説を担当しています。
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