2007年03月24日
『イヴェント '76』 by アレア(Event '76 by Area)
ジャケットは、ボリス・カーロフ(Boris Karloff)主演の映画『フランケンシュタイン(Frankenstein)』の一挿話から。
少女と邂逅した"怪物(The Monster)"がほんの一瞬の癒しを得るシーンで、この後に二人の遭遇は悲劇的色彩を帯びる訳だけれども、ここでは"怪物(The Monster)"は、その意味を訝しがりながらも少女から手渡された一輪の花を手にし、少女の顔には笑みが浮んでいる。
本作品は、イタリア(Italia)が輩出した傑物バンド、アレア(Area)名義で発表されたが、実質は、その中心人物だった3名とスティーブ・レイシー(Steve Lacy)とポール・リットン(Paul Litton)とのセッション作品。音楽的にもフリー・ジャズ(Free Jazz)色の強いもので、アレア(Area)というバンドの本質に迫るものだけれども、必ずしも万人に向けて発表された作品ではない。
白血病によって亡くなった、このバンドのリード・ヴォーカリスト、デメトリオ・ストラトス(Demetrio Stratos)の追悼作品として結果的に発表されたもの。
恐らく不慮の死がなければ、異なる名義で発表されたかもしれないし、この作品と同時期に制作された『Maledetti』のサブ・テキストとしての発表もあっただろう。『Maledetti』の最終曲として、本作品参加の5人のセッション・ナンバー「カオス(パート2)[Caos(parte seconda) ]」が収録されている。
アレア(Area)本体(1973 - 1979)に関して簡単に説明すると、不世出のヴォーカリスト(彼が如何に空前絶後なのかはこちらのヴォイス・パフォーマンスを御覧下さい)、デメトリオ・ストラトス(Demetrio Stratos)を中心に結成された、ジャズ・イディオムを投入した超絶技巧派プログレッシブ・ロック(progressive rock)。当時の不安定なイタリア(Italia)の政情を反映してか、左翼/共産主義(Communism)的なメッセージを発していた。ライブの最終曲はいつも「インターナショナル(L'Internationale)」だったそう(彼らの演奏はこちら)。
と、書くとちょっと近寄りがたい印象を与えるけれども、バンド活動当時は国民的な支持を得ていて、デメトリオ・ストラトス(Demetrio Stratos)追悼コンサートには、イタリア(Italia)の音楽シーンを支えるアーティスト/バンドが35組も出演し、約6万人もの観衆があつまった。その模様は『1979 Il Concerto: Tribute To Demetrio Stratos』として音源化されています。
アレア(Area)の代表作としては、ファースト・アルバム『Arbeit Macht Frei』やデメトリオ・ストラトス(Demetrio Stratos)存命時の最後のアルバム『1978 Gli Dei Se Ne Vanno, Gli Arrabbiati Restano!』、そして彼らの音楽性を最大限に披露した『Maledetti』を挙げておきます。
さて、このアルバムは『Maledetti』に記載されたデメトリオ・ストラトス(Demetrio Stratos)のライナー・ノーツによれば、記譜された曲ではなくて、あるルールによって演奏されたインプロヴィゼーション(Improvisation)との事。普通の感情(31パターン)、暴力(5パターン)、催眠状態(5パターン)、セックス(5パターン)、沈黙(11パターン)を書き綴ったカードを無作為に各ミュージシャンが6枚づつ引き、そのカードのインスピレーションによるインプロヴィゼーション(Improvisation)が90秒毎に変化して演奏されるという。カードを手渡しているスナップショットは、『Maledetti』表ジャケットにも本作インナーにも掲載されている。
そして話は冒頭のジャケットに戻る。何故、この映画のワン・シーンなのだろうか、と。単純に考えれば、彼らの所属レーベル、クランプス(Cramps Records)のシンボル・マークがボリス・カーロフ(Boris Karloff)演じる"怪物(The Monster)"だからという事になるのだろうけれども?
例えば、こんな事を漠然と考えてみる。
手渡されたカードに書かれた"言葉"からひとつの音楽を産み出す事と、文学が映像作品に転嫁された事によって産み出されるものは、同じか否か?
メアリー・シェリー(Mary Shelley)による原作小説では、創造者(The Creator)と創造物(The Creature)との関係性であったものが、ボリス・カーロフ(Boris Karloff)によって、博士(The Doctor)と怪物(The Monster)との物語に変転する。そして、主役はそこで入れ替わる。創造者の苦悩から怪物に産まれた悲劇性へと。
少女から差し出された一輪の花を、おずおずと受け取った創造物(The Creature)は何を想ったのだろうか? 少女から差し出された一輪の花を、おずおずと受け取った怪物(The Monster)は何を行ったのだろうか?
ここで行われる譲渡の儀式を思い浮かべながら、カードを渡すモノとカードを受け取るモノそして彼らによって産み出される音楽の正体を考えながら、もう一度、この作品の演奏を聴こう。
ps:先頃、亡くなったジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)の「もはや現代社会では社会を組織する様式としての本来の交換はない」という発言が、なんとなく引っ掛かっているのは、1976年では、まだマルクス主義(Marxismus)的な「価値と交換」の理念が有効であったという大前提が、もはや当時から通用しなくなってしまったのでは?という疑義を拭いさる事が出来ないからに他ならない。
ものづくし(click in the world!)51.:
イヴェント '76 by アレア
("event '76" by area)
イヴェント '76 (event '76)Registrato dal vivo nell' Aula Magna dell' Universita Statale di Milano
by アレア (area international POPular group)
1a parte
1.カオスII (パート1)(20'38")
Caos II petro(1)
2a parte
2.カオスII (パート2)(9'25")
Caos II petro(2)
3.イヴェント '76(9'28")
event '76
Musiche testi:
パトリツィオ・ファリセッリ : ピアノ(Patrizio Fariselli: pianoforte acustico)
スティーブ・レイシー : ソプラノ・サックス(Steve Lacy : sax soprano)
ポール・リットン : パーカッション(Paul Litton : percussioni)
デメトリオ・ストラトス : ヴォーカル(Demetrio Stratos : voce)
パオロ・トファーニ : ギター、シンセサイザー(Paolo Tofani :chitarra,sintetizzatore,tcherapnin)
Meccanico del suono : Abramo Pesatori
Produzione : Paolo Tofani,Claudio Rocchi
Testi e musiche: Paolo Tofani,Demetrio Stratos
Edizioni muiscali : Cramps Music srl Milano
Art Direction : Gianni Sassi
Desigher : Emilio Pedrinella
Fotografi : Robert Masotti,Fabio Simon,Tony Thorimbert
Cramps Records
Distributed by: Artis Records
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