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2007年05月06日

試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか?(第一部)


黒澤明(Akira Kurosawa)監督の映画『羅生門(Rashomon)』のエンディングが気に入らない。こんな無知とも無謀とも言える暴言を無担保で言い放つからこういう事になる。申し訳ないが、しばらくおつきあい頂きたい。もしも、映画『羅生門(Rashomon)』をリメイクするのならば...。

1951年にヴェネチア国際映画祭Internazionale D'arte Sinematografica Di Venezia)でグランプリを受賞して、黒澤明(Akira Kurosawa)という名前を全世界に轟かせた本作、日本映画界の絶頂期にあったこの幸福な作品に大鉈をふりかざして、切り苛んでしまおうという、すぷらったSplatter Picture aka Slasher Movie)な妄想大爆発の企画記事、果たして、どうなる事にあいなりますでしょうか?

ところで、映画としては凄まじいオリジナリティを発揮している作品だけれども、皆さん御存知のとおり、ちゃあんと原作もある。芥川龍之介(Ryunosuke Akutagawa)の『羅生門』と『薮の中』というふたつの短編小説をベースにしている。しかも、芥川龍之介(Ryunosuke Akutagawa)自身も中世の説話文学今昔物語集』のふたつの説話、『羅城門登上層見死人盗人語(羅城門に登り死人を見る盗人の話)』と『具妻行丹波国男於大江山被縛(妻と伴い丹波の国へ行く男が大江山で縛られる話)』を基に、近代小説に翻案しているという、作品の経緯を辿れば、ややこしい履歴がつきまとう。つまりは、翻案に次ぐ翻案の上に築き上げられた砂上の楼閣ならぬセルロイドの幻想(=ゆめ)、これが”黒澤明の『羅生門』(Rashomon directed by Akira Kurosawa)”です。



さて、芥川龍之介(Ryunosuke Akutagawa)のふたつの短編小説羅生門』と『薮の中』をどうゆう形で、黒澤明(Akira Kurosawa)[というよりも脚本を共同執筆した橋本忍(Shinobu Hashimoto)も含めてか!?]は、構築したのか?
黒い豪雨の中に、さらにどすぐろく浮かび上がる倒壊寸前の羅生門で物語られる不思議な逸話。それが映画『羅生門(Rashomon)』である。そして、その逸話の主軸を成すのが芥川龍之介(Ryunosuke Akutagawa)の『薮の中』の映像的な翻案である。つまりは、『薮の中』を『羅生門』というオブラートで包み込んだ、入れ子構造となっているわけだ。豪雨に閉じ込められて行くに行けない男達は、あくまでも物静かに先程の己達が見聞きした体験を語るが、その語られる内容そのものは激しい愛情と肉体のぶつかり合いである。
あえて言えば、「静」の中に「動」があり、「謐」の中に「檄」がある。


豪雨に閉じ込められた男達が物語る物語は、三人の男女の激情(これはおそらくこれまでの日本映画にはなかったもの?)の迸りで、奔流の様に濁流の様に、激しさを増す物語は、感情の赴くままに行方知れずのものとなってしまう。その行方知れずをどうにかこうにか踏み止まらさせて映画の文法(ひいて言えば物語の文法)に立ち停まらさせて、物語を物語らせていくのが羅生門という舞台設定が与えられた役割である。
蛇足を承知で付け加えれば、「感情=本能」の物語を「理知=理性」の物語が制御して進行させて行くのだ。
そして、「動」にして「檄」、「感情=本能」の物語の(形式論的な)結末を語り終えたところで、羅生門に停まる男達は、その物語に近代小説の枠組の中での「了」はおろか、説話的な終焉をも、もたらす事が出来ない(物語を物語り終ったところで円環状に冒頭に戻るかの印象すら与えられる)。そして、本来ならばここから『羅生門』の物語が始る予感を孕みながらも、映画は唐突に終る(少なくとも、僕個人の印象では)。
薮の中』の物語で語られた物語と、本来ならば『羅生門』で語るべき物語が、唐突に、あるもので止揚されてしまうのだ。「静」と「動」、「謐」と「檄」、「感情=本能」と「理知=理性」、これらの対立軸をなしくずしに上位概念?の呈示で、終らせているのである。

第二部につづく

ものづくし(click in the world!)55.:羅生門<参考資料>

映画『羅生門』
 DVD / 作品解説 / IMDb / Trailer / Sound Tracks
小説『羅生門』 文庫 / on web / 解説
小説『薮の中』 文庫 / on web / 解説
今昔物語『羅城門登上層見死人盗人語(羅城門に登り死人を見る盗人の話)
 文庫 / 現代語訳 on web / 原文 on web
今昔物語『具妻行丹波国男於大江山被縛(妻と伴い丹波の国へ行く男が大江山で縛られる話)
 文庫 / 現代語訳 on web / 原文 on web

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» 映画『羅生門』をリメイク出来るのか?:第二部 from can we beat them?
第一部である前回の記事はこちらです。 でも、必ずしも第一部を読まなくて、ここから読み始めても良い様に... [詳しくはこちら]

» 試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか?(第三部) from can we beat them?
前回で、芥川龍之介(Ryunosuke Akutagawa)の小説『薮の中』が小説『羅生門』の続編で... [詳しくはこちら]

» 試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか?(第四部) from can we beat them?
前回では、本論から脇にそれて大きな寄り道をして、映画『羅生門(Rashomon)』で杣売を演じた志村... [詳しくはこちら]

コメント

>丸義さん

>TBさせて頂こうと思って、あれこれ試してみたんですが、
>どうにも上手く行かず。
こちらこそ、お手を煩わさせてしまって、申し訳ありません。

>第二部も楽しみにしてますね。
結論めいた事を事前に用意している訳ではないので、これから先、一体、どうなる事やら。
ご期待に添えるかどうか解りませんが、頑張ります。

盛り沢山の内容、じっくり読ませて頂きました!!
(TB、有難う御座います)
第二部も楽しみにしてますね。

※TBさせて頂こうと思って、あれこれ試してみたんですが、
どうにも上手く行かず。
すみません。

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